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「心配してきちまったが。俺の出る幕ナシ……か」


よれっとしたスーツに黒ブチ眼鏡


もっさりヘアーの男が


ひとり、影からそっと生徒たちの様子を見守っていた。


「なにをしているんだい? 狼谷くん」

「……げ」


狼谷の背後から現れたのは、狼谷と対照的にシャキッとしたスーツを羽織った上品な男だった。


「私は、とっくに君を切ったはずだが」

「いやぁ。こんなところで会うなんて奇遇ですね」

「バカ言うな。ここは私の学校だ」

「あんまり無茶しちゃ駄目ですよ? ご子息が気に病んでしまいますから」

「はは。余計なお世話だな。あいつは強い」

「……もう会うことはありませんね」

「それが恩人への態度か」

「借りなら返しましたよ。お元気で、理事長」

「君もな」


理事長の背中を見つめながら、狼谷は、小さく囁いた。


「まぁ、またお邪魔させてもらいますがね」