「――待てよ」

「!!」


突然、手首をつかまれる。


「ないのか?」

「…………」

「教科書とか」

「…………」

「放課後、教室で待機すること」


は?


「……それまでは、耐えろ」


そばに生徒が通りがかったからか、急に先生の声が小さくなった。


「次、なんの授業?」

「日本史だけど……」

「ちょっと待ってろ」


狼谷先生がわたしの手を離すと、どこかへと消えていく。


少しして戻ってきた先生の手には……


「ほらよ」


日本史に必要なものが全て揃っていた。

テキスト、シャーペンとルーズリーフ数枚。

これだけあれば、授業をバッチリ受けられる。


「ど……どうしたんですか、これ」

「借りた」

「借りたって……」


なんで?

って、こんなの誰が貸してくれたの?


「これで問題なく出られるだろ」

「まあ……そうですが」

「それじゃ、また放課後な。モト公」


「だからわたしは……」


モト公じゃ……


「ん?」

「……いえ。ありがとうございます、先生」

「どうってことねーよ」