「っていうか、いつまで触ってるんですか」
頭をずっと撫でられてるんですが。
「いやー。撫で心地よくて、つい」
「……恥ずかしいんですけど」
「こんくらいで?」
「っ、昔。お母さんに、同じようにしてもらったことがあるような気がします」
それは、お風呂あがりにドライヤーで髪をかわかしてもらったときの記憶かもしれない。
「へぇ」
「曖昧なんですけど。『素子はかわいいねー』なんて言われながら」
「そう」
「あの頃のわたしは、お母さんが自分の前から消えるなんて思ってなかったんですよね……きっと」
いなくなるとわかっていたら
もっともっといい子にしたのに。
たくさん話をして思い出を作れたのに。
ワガママいってごねたり
手伝いをせずに遊んでばかりいたりせずに。
「わたし、あんまりいい子だった記憶ないんです」


