『誰にも言うなよ?』



エリカが靴を履き替えるのでわたしも靴を上履きからスニーカーに履き替えた。


(どこに行くつもり……?)


校門に向かい歩いていくエリカの少し後ろを歩いていると、エリカが歩く速度を落とし、わたしの隣に並んだ。

けっしてこっちを見ようとはせず、まっすぐ前を見つめている横顔は美しい。


「あたしの彼氏、飛んじゃった」


――は?


飛んだ……って?

まさか、自殺したとか言わないよね?


「連絡とれないんだよね。多分、逃げたんだと思う」

「逃げ……た……?」


どうしてエリカが身の上話をわたしにするのだろう。それもこんな、自慢話でもなんでもない話を。


「そんなわけでさぁ。ここに通う意味、なくなっちゃったの」


校門までやってくると、一台の車が停まっていた。

誰もが知る高級外車だ。


「新しい街で面白いこと探してくるよ」

「は?」

「転校させてもらうの」

「……愛美は? 愛美も転校するの?」

「さぁ」

「さぁって……」

「どうかしたの? あの子」

「愛美もエリカと同じ日から学校に来てないんだけど……知らないの?」

「うん。知らない。あたしに怯えてるのかもね。会ったら言っておいて? “解放してあげる”って」