顔を上げると、真横に誰か立っていた。
……狼谷先生だ。
とっくに教室を出ていったはずなのに。
どうしてそんなところに?
気配がなさすぎて驚いた。
まあ、いつものことか。
いきなり現れるの心臓に悪いのでやめて下さい。
っていうか、いま
“犬”……って言った?
「せ、先生?」
「実は、授業終わりに言い忘れたことがありまして」
……うん。いつもの先生だね。
さっきのは、空耳だったのかな。
こんなに優しい声じゃなかった気がするし。
低くて、冷たい声だった。
「言い忘れたこと……って、なんですか?」
「全員分のノート、昼休みに準備室まで持ってきて下さい」
「はい。わかりました」
いかにも委員長が頼まれそうな用事。
「ありがとうございます。よろしくお願いしますね、木乃さん」
軽く会釈すると先生は教室から出ていった。


