【短編】生け贄と愛


 自分の腕の中で意識を失ったロゼを、シルヴェスタは無言のまま眺めた。

彼は夜目がきく。

気を失う瞬間に彼女が浮かべた表情、耳に残る声。


ぷっくりした唇が紡いだ言葉。


好き、だと?


無表情でぐったりした娘を抱いているだけに見えるが、シルヴェスタは大いに混乱していた。

自分は己の心も理解できていないのに、腕の中のこの少女は、騙したあげく酷い目に遭わせた自分を好きだと言った。


愛されたいというのが彼女の願いではなかったか。


それなのに、ロゼは自分の願いよりも先にシルヴェスタを愛すことを選んだ。

彼女が望んでいたのは一方通行の愛ではなかったか。


今まで辛い境遇にあったというのに、なんと愛情深い。


きっと彼女──ロゼは、その感情が愛だとは気がついていない。

どのような気持ちが愛か、どのように想われることが愛か。

それを知らないから、好きという言葉を選んだのだ。


吸血鬼という名前そのものの行為を見て、牙を立てられて、それでも化け物と言わなかった。

悲鳴をあげなかった。

逃げようとしなかった。

出て行ったのは、あくまでシルヴェスタに命令されたからで。