緋女 ~後編~




「結局、食べ物買えてないんだけど」

「そうだな」


お互い不機嫌そうな声を出し合う俺たちはあの森に来ていた。あの場で魔法を使って瞬間移動したのだ。

目の前の池に三日月がよく映える。
とても、静かな場所だ。

どちらからともなく、俺たちは少しだけ距離を開けて座った。

手持ちぶさたで、気まずくて、何度も口を開きかけたが、その度つぐむ。


仕方なく、湖面を眺めていると、

「ゴル、シル」

彼女が不意に呟いた。



「呼んだか、我が乙女」

「そちじゃのうて、妾よっ!」


相変わらずこの場所に似合わぬ二匹だ。


まあ、気まずさは紛れるか。


「ねぇ、ゴルとシル。どっちかこの男蹴飛ばして沈めて来てくれない?」

「は?」

「承知した」

「妾に任せよ」


妖狼と鳳凰が迫ってくるのに、さすがに焦る。


「おい、こいつら止めろ」

「嫌よ」


彼女は涼しい顔で、湖面から目を離さずに言う。


「この池には不思議な力があるんでしょ?」

「不思議な力?」


「自分自身を映してくれる。私はあなたを映してみたい」


「もう一人の自分と会えるって言っただけだ」

「そうだったけ?まあ、なんでもいいわ」


妖狼が俺に体当たりして俺を倒し、鳳凰がその俺の体を持ち上げる。

仲が悪いのに、こういった連携プレイは得意なようだ。


ぼちゃん。


抵抗もしなかったが、それでも思ったよりずっと早く池に落とされた。


さすがに冷たい。


「姫、やったのう!」

「すっきりした」


なんてヒドイ感想を述べる二匹だ。でも、少し遠くで彼女も笑っているように見える。


全く、ムカつく女。