なんで、と言われても困る。
夜になると現れる薔薇の花束。そんなもの、使い道なんて限られているじゃないか。
「聞いてる?」
答えあぐねていると、彼女が急かす。
そういえば、彼女は花が好きだとかなんとかで、あの庭で王子と仲良くなってしまったんだったか。
「そんなに花が好きなんですか?」
俺に花を愛でるような感性はない。
花に気をかける余裕があるなら、明日の飢えを憂いていた方がよっぽどためになった。
でも、彼女が好きだと言うものなら、どんなにくだらないものでも欲しくなる。
「うん。好きだよ」
彼女の口から出るその好きが俺に向けられていないことなんて分かっていても。
「そうですか」
「うん。でも、薔薇の花束だけなんて本当になんでなの?」
そう言って顔をしかめる彼女は、薔薇の花束だけしか売ってないことが、どうやらとても気に入らないようだった。
「なんで、と言われましても、夜は花束くらいしか売れませんよ。花の株が売れるのは昼間だけです」
「そう?………でもまあ、確かに夜の花屋さんには行ったことないかも」
そう言いつつも、まだ納得がいかないような顔をしている彼女を横目に俺は空いている方の手で指紋認証をして、花束を抜き取った。これで俺の口座から花束の代金は抜き取られていることになる。
しかし、俺がこんな花束を買うことになるなんて。
思わず笑ってしまった。
なのに__
なのに、彼女は俺の手を放した。
「えっと、誰かにあげるの……?」
「ええ。私は花を愛でるような趣味はないので」
だから、花が好きだという君に、これをあげよう。
そう言おうと口を開いたその時、
「もしかして、私にくれるの?」
とても嬉しそうには見えない顔で彼女がそう言った。
「……違った?」
彼女はいつまでも答えない俺に困ったように笑った。
なんだよ。
何がどうして気に入らない?
「だから、自惚れないでください?」
俺は上手く無表情になれているか分からなかった。



