緋女 ~後編~




「あっ」

最初に連れていったのは城下町。
死色の桜の道は___連れていくにしてももう少し後にしたい。

「これ、かぶってください」


彼女が白銀の髪のままだったことに気づいて俺は、身に付けていたフード付きのローブを彼女にかぶせた。

彼女は頷くと笑った。


「何だか前に来たのがすっごく昔って感じがする」

「そうですか?実際はほんの数週間前ですが」


でも、言われてみれば、確かにもうずっと昔の話のような気がする。

今日は前とは違い夕方だ。
俺は彼女の手を握ったまま、足を速めた。日が暮れるまでにはここは出たい。


この賑わう表通りでも夜になれば危険は増す。裏通りなんて昼間でも彼女を連れては歩けない。

何を隠そう、一本道をずれたら物乞いとチンピラで溢れているような国だ。

そうでなくてもいかがわしい店の看板娘は、ここ表通りでも客引きをしている。余程の世間知らずじゃなきゃ、斜め右前方に佇む赤いドレスの女がそういう女だと気づくはずだ。

そしてもう少し行った先の角を曲がると、違法な賭博店ばかりだ。負けて金がすっからかんになってひどい目にあった奴が、十中八九路上に転がってる



だが、道を歩く人に彼らへの同情はない。
みんな、そんな国やそんな日常に慣れきってしまって、なんにも思わないのだ。この現状が我が身になって始めて不満に思う。



それが俺がほんの数年前まで生きていたところだ。



だが、だからといってそういう奴に何の情も抱かないし、戻る気だってさらさらない。


「この時間でも人はたくさんいるんだ」

「ええ。夜は日中の疲れを忘れるためにお酒を求めて人が集まるの来ます」

俺の答えは間違ってはいない。
だが、真実でもない。


でも、彼女は何も知らずに楽しんでいればいいと思う。
皮肉じゃない。本気でそう思う。



どうせこの先も彼女の綺麗なこの手が汚れることはないのだから、汚い世界など知らなくていい。


血濡れた道を歩いて笑うのは俺だけでいい。


「あっ!前食べたの、あれじゃない?」

「食べ物のことだけはよく覚えてますね」

「なにそれ、バカにしてるの?」

「おや、なぜお分かりに?」


俺が汚いものは全部隠してみせよう。
それで彼女が綺麗事を並べて、何度でも俺の汚れた手をを掴んでくれるなら、安いものだ。