彼女から手を離した。にも関わらず、彼女はぶつくさ文句を言う。俺は感情を殺して黙ることに専念した。


俺に答えがないのが分かったのか、彼女はため息をつく。


「好きなものがないって………まあいいや。じゃあ、私の一番の自信作でいい?」

「ですから、レヴィア様のお好きなものを、好きなだけおつくりに下さい」

「はいはい。後になって、私の手料理がケイの好きなものになったとしても、おかわりはあげないんだからね」



「自信過剰ですね。それとも将来は国王付きの料理人ですか?」


食事が美味しいとか、これは好きとか嫌いとか、そんなものはここ十二年考えたこともなかった。


生きるための食事。楽しむものなんかじゃ決してなかった。
だから俺は食べられれば何でもいいのだ。


したがって、次の国王付きの料理人は食えるものを出せばそれでいい。


俺がこの国の玉座に座るのだから。


「国王の料理人?まあ、それもいいかもね」


軽く彼女はそう返すが、それは王子であるライサーの料理人にならなっていいということなのだろうか。


考え始めたら止まらないので、感情をまた押し殺す。



彼女はティーカップの残り一口を飲み干すと、宿題を先に片づけてしまうから、お互いフリータイムねと言った。


ほんの少し前まで、彼女の時間を決めていたのは俺なのに。

その事が頭を過った時、背を向けた彼女をいいことに、俺は静かに頭を抱えた。


感情がコントロールできない。


ああ、だから俺は数週間前に彼女と出来るだけ離れていようと決めたのだ。この感情にまかせて彼女をめちゃくちゃにしてしまう前に。どうせ叶うことのない感情だからと。


だが、結果はどうだ?


離れても彼女はすぐに戻ってくる。俺の要らぬ感情と共に戻ってくる。なのにすぐにいなくなって、きっとどんどん遠い所へ行ってしまう。そのうち帰らなくなるかもしれない。



不安と一緒に加速する想いはどうにもならない。