「ただいまー」


玄関を開けるとカレーの匂いが漂ってくる。


「あら、おかえりなさい。
早かったわね。映画どうだった?」


母はキッチンから目を輝かせて私の返答を待つ。


「うん、すごく面白かった。
特にあの主人公が恋人を助けに行くのが…」



ここ最近、私は嘘をつくのが得意になってしまったようだ。


クラスメイトたちのおかげで感動すべきところであまり感動できなかったのだ。


「今日はカレー?」

「そーよー

もう少しで出来るから、テーブル片付けてくれない?」

「はーい」




うちのカレーは必ずルウで作るもので

レトルトが出る日は一日もない。


「いただきます。」



私は母のカレーが一番好きだ。

先程の苛立ちを忘れるようにカレーをスプーンに掬い、口へ運ぶ。


夏は冷たいものが食べたいと思うが、カレーは別だ。

ホカホカと湯気が上がり、米の一粒一粒が輝く。

その上に鶏肉多めのトロトロのルウをかける。


配膳をする瞬間までも私はカレーが好きなのだ。



食べ終わり、ほうじ茶を口に含む。

カレーで熱くなった口の中を冷やすようにゆっくりとほうじ茶を飲み込む。


「ごちそうさまでした。」


「あ、そうだ奏!
今年はお盆の前からばあばんち行くから、準備しといてね。」


「…わかった!
え、いつ出発?」



「お盆の一週間前!」




「え、結構早いね」




「ごめんごめん、でも奏は毎年楽しみにしてたじゃない。」




「うん!準備しとく…」



やばい…にやけが止まらない…










元気かな…一縷(いちる)くん…