「アレックス、私は幸せになれたわ……だからもう、あなたも幸せになっていいのよ」





アシュリーはそう言って笑った。


「あなたも、幸せになって……」


俺がどうしてアシュリーに逢いに来たのか、彼女はわかっていたのだ。そして俺も、シオンをどうして城へ呼べなかったのか、本当はわかっていた。

アシュリーに私は今幸せだと言われても、前のようには心が痛まなかった。もう、過去は思い出という箱に詰めていいのだと、彼女に背中を押された気がした。


「ありがとう、アシュリー」


そう言うと彼女は、俺の好きだった柔和な笑みを浮かべて頷いてくれた。




アシュリーに見送られながら外へ出ると、雪は止んでいた。今は晴れた夜空に、星が光っている。

いつの間にかその場から姿を消していたジェイクが、こちらへ戻ってくるのが見えた。


「おや、話はもういいのですか、アレックス陛下?」

「まあな。あんまり長いといくらお前でも風邪を引くだろうしな」


私は普段から鍛えていますから、なんてふざけて返してきたが。どうやらジェイクにも今日の事は全てばれていたのだろう、そんな気がした。


「兄さんもアレックス陛下も、今度はもっとゆっくり来てくださいね」


別れ際、アシュリーはまた俺の事を陛下と呼んだ。

しかし今度はそれ程腹は立たなかったし、仕方の無い事だと諦める事もできた。彼女の中の思い出という箱の中から時折、アレックスという名の幼馴染がいた事を見つけだしてくれればそれでいい。


「今度は黒猫も連れてきてやらないとな」


黒猫と同じ名前の、彼女――――シオンと一緒に、また。