「ブラッド〜。そろそろ行くよ」

「ああ。ちょっと待ってくれ」
 
出かける前に一度自室に戻った俺は、机の引き出しから黒い眼帯を取り出す。鏡の前に行き取り出した眼帯を右目に付ける。

「よし」
 
これで全ての準備が整った。

「早く〜」

「分かってるからそう急ぐなって」
 
自室を出た俺はミリィと一緒に街へ向かって出発した。

☆ ☆ ☆

「ねえ、ブラッド。いい加減いろんな女の子に声かけるのやめたら?」

「なっ!」

ミリィからそんな言葉が出てくると思っていなかった俺は思わず後退った。そしてミリィに問いかける。

「お前まさか……俺の事が好きだったのか?!」

「安心して。それだけは絶対ないから」
 
そんなにはっきり言わなくても良いだろ。

そう思いながらやっぱりと思う。まあ、ミリィが俺のこと好きになるのは有り得ないか。

「何でそんなこと急に言い出すんだよ?」

「だって、ブラッドの好みの子なんて絶対に存在しないからだよ」

「俺好みの女の子?」
 
そんな話したっけ? と思いふと足を止める。
 
それに気がついたミリィも少し先を歩いたところで足を止め、俺の方を振り返る。

そして呆れたように溜め息を深々と吐いた。

「前に言ってたじゃん。忘れちゃったの?」

「俺好み……」
 
言われてみればそんな話を少し前にミリィにしたな。確かあの時は――
 
俺は数日前にミリィと話した会話を思い出す。

「俺の好みはな、癖一つない白銀の長い髪を持つ女性だ。真っ白な肌に映える桃色の唇。そして宝石サファイアの如く美しく透き通るような碧眼の瞳。そんな瞳で見つめられたら、俺はその人の為なら死ねると思うだろう」
 
なんて言った事を思い出し俺は苦笑して頬を掻く。

今思うとミリィの言う通りそんな子が絶対に存在するはずがなく、俺は咳払いをしてさっきの記憶を頭の中から消し去ろうとする。