「じゃあ、まずは……えい!」

「──?」
 
彼女は何か魔法はなったようだが、辺りに何の変化も見られない。

「あれ〜? おかしいなぁ」

「だから言ったじゃないですか! あなたの魔法はまだ未完成で──」
 
そのとき右肩を何かが貫いたような痛みが走った。

「っ!」
 
そのことに気がついた俺は直ぐに右肩に治癒魔法をかける。

「ブラッド!」

「くっ……そ!」

治癒魔法をかけているのに止血することが出来ない。いや、その前に……気づくのが遅かったら、今頃俺の右肩は!

「あれ? 威力間違えちゃったかな?」

「威力を間違えただと?」
 
俺は肩を抑えて膝をつく。そんな俺の隣にレオンハルトが慌てて駆け寄ってきた。

「ごめんね。私まだ魔法が上手く使えなくて」

「そんな……初めて料理を作ってみて見た目は全然普通なのに、食べてみたら味が絶望的に不味かったんだよ〜、ふうに言われても……」

「その例えはなんだ……」
 
シエルは初めて魔法が使えて嬉しいのか、アルファの周りをぴょんぴょん跳ねている。

「ブラッド。あの子をどう思う?」

「……顔立ちはセシルと瓜二つだ。でもあいつはセシルの革を被った化物だ。気づくのが遅れていたら俺の肩、いや半身は吹き飛んでいただろうな」
 
そう思うだけで体を悪寒が襲った。
 
あの子は何者なんだ? アルファが様付して呼ぶってことは、クラウンと何か関係があるのか?

「これはこれは、全員お揃いで」

「っ!」
 
そのとき頭上の方で声が聞こえた。俺たちは上を見上げる。
 
真っ黒に染まった黒髪に右顔を仮面で半分隠し、俺たちを見下ろしているあの憎き男の存在がそこにあった。

「クラウン!!」
 
俺は息を吸って憎き男の名を叫んだ。