「それでも僕はベータとガンマと一緒に出口を探した。でも逃げようとする度に、魔法警察の奴らが奴隷たちを捕まえて、一人また一人と殺していった」

「っ!」

「僕も捕まって殺されかけましたよ。でもそのときにあの人が来てくれました」

「……それが」
 
クラウンだ。

「クラウン様は魔法を使って、迫ってくる炎を止めてくれた。そして僕たち奴隷の人たちを開放してくれた」
 
奴隷たちを開放したクラウンは、奴隷だった人たちからしたら救世主に見えただろう。

【道化師】と言う組織を作り、クラウンが望む世界を現実にするため、助けてくれた恩を返すために、アルファたちは戦っているんだ。

「だからクラウン様の僕たちはここに居る。クラウン様が望む世界には、オフィーリアさんの持つ星の涙が必要なんです」
 
その話を聞いて俺は目を細める。

「お前たちの話を聞いてクラウンがお前たちにとってどういう人間なのかは分かった。助けてくれた恩を返したい気持ちは分からくもない。でも……」
 
俺はアルファに近寄り胸倉を掴んで叫ぶ。

「そのために大勢の人を殺すのはおかしいだろ! 世界を作り変えるためにオフィーリアの星の涙を使って、何の罪もない人たちを殺すのか!」

「そうですよ! 罪のない人間なんてこの世界に存在しない! ブラッドさん、君だって例外じゃないんだ!!」

「くっ!」
 
俺の中であの時の光景がフラッシュバックした。両親を殺したとクラウンから直接告げられたあの日、セシルの変わり果てた姿を目にしたあの時、俺が……家族を殺した罪を背負ったあの日──

「……っ」
 
俺は自分自身を落ち着かせるため軽く息を吐く。
 
例えそうだとしてもやっぱりクラウンがやろうとしていることに納得できない。

「分かった……そこまで言うなら、今この場でお前を殺してやる」

「ブラッド!」
 
胸倉を掴んでいた手を離しアルファに右手をかざす。

「罪を犯し罪人よ」

「やめろ! ブラッド!」
 
後ろの方でレオンハルトの声が聞こえる。しかし今の俺を止めることは誰にも出来ない。

「神より聖なる鉄槌を受けよ」
 
俺に向かって走り出したレオンハルトが手を伸ばす。
 
すまないレオンハルト。俺は決めたんだ。

オフィーリアを守ると──

そのためなら何だってやると覚悟を決めたんだ。

この手が血に染まろうとも、オフィーリアが笑顔で幸せな日々を過ごせるなら、俺はどんな罪でも背負うつもりだ。

たとえ未来に向かって一緒に歩いて行けなくても、オフィーリアが幸せならそれで構わない。

「ブラッド!!!」
 
レオンハルトの手が俺の肩に届く寸前で、俺は右手を振り上げ勢い良く振り下ろす。