「僕は奴隷区で生まれて奴隷区で育った」

「連れて来られたんじゃないのか?」

「連れて来られたのはベータとガンマだよ。僕は見知らぬ男に抱かれ、見知らぬ男の子を身ごもった母から生まれた」
 
アルファは苦しい表現を浮かべると言う。

「あの世界で生きて行くには、僕たちは奴隷になって働くしかなかったんだ。僕を生んだ母さんは女としての価値を失い、売れ残りの奴隷として扱われ、最後は自分から命を絶った」
 
アルファは拳に力を込めていた。悔しそうに表情を歪め、今抱いている感情をどう吐き出せば良いのか分からいように見えた。

「なぜ魔法警察に助けを求めなかった?」
 
レオンハルトの言葉にアルファは思い出したように言う。

「そっか……あのとき君たち子供だったのか。なら、あの話を知らなくて当然ですね」

「あの話だと?」
 
アルファはレオンハルトに体を向けると言う。

「僕たち奴隷は一ヶ月に一度視察に来る魔法警察に助けを求めましたよ。もうこんなことはやめてくれ、俺たちを開放してくれってね。でも、あいつらは言ったんですよ」
 
アルファは軽く息を吸うと大声で叫ぶように言う。

「あいつらは僕たちに! 【奴隷の分際で助けを求めるな】って言ったんですよ!!」

「なっ!」

「まさかっ!」
 
街の人たちを守り、助けを求める人たちに手を差し伸べてきた魔法警察が、そんなことを言ったのか?!

「その話しは本当なのか?」
 
レオンハルトは落ち着いた口調でアルファに問いかける。頭を縦に振ったアルファは言葉を続ける。

「その言葉を聞いた僕たちは絶望したよ。街の人たちを守り、手を差し伸べてきた奴らまでもが、僕たちを奴隷扱いした。そして奴らはあることを実行したんだ」

「あること?」

「あいつらは魔法教会から命を受けて、僕たちが住んでいた奴隷区を火の海にしたんですよ」
 
アルファの言葉にレオンハルトは目を丸くした。
 
魔法教会にはギルも関係している。ギルはこのことを知っているのか?!

「僕たちは必死に迫ってくる炎から逃げました。でも街の入口は大きな岩で塞がれ、逃げることなんて出来なかった」

「まさか誰一人も逃さす、殺そうとしたっていうのか!」
 
レオンハルトは低い声でそう言うと拳に力を込める。