✭ ✭ ✭

「お前と戦っている時間はないんだよ!! 焔の翼(フレイムエール)!!」

「貴様の足止めをするのが私の仕事だ!」
 
焔の翼をかわしたベータは剣を俺に振り下ろす。

「っ!!」
 
ベータと戦って何分経った? もうレオンハルトたちが到着しても良い時間帯のはずだ。

「もう仕方ないか……」
 
俺は地面に手を付く。

「何をするつもりですか? いくら足掻いても貴様に勝利などありません」

「言っただろ? お前と戦っている時間はない!」
 
右目に魔力を注ぐと俺の周りに魔法陣が浮かび上がる。

「この魔力はアルファを倒した時の……」

「ご名答。今回はあの時よりもありったけの魔法を注いでいる。アルファが生きていたとしてもお前は無理だ」

「……」
 
ベータは諦めたのか持っていた剣を鞘に戻す。

「罪をおかした罪人よ、神より一撃の鉄槌を受けよ!」
 
詠唱と共に浮かびあがった魔法陣はベータの方を向く。

「神の断罪!」
 
魔法陣から放たれる光の柱がベータの体を包み込んだ。

「はあ……。よし、これで――」

「なるほど。確かにこの魔法ではアルファが生きているのはやっとですね」

「っ!」
 
土煙が上がる中、黒い影が薄っすらと姿を現す。その影を見た俺は目を見開く。
 
超上級魔法の中でもトップの威力を誇る神の断罪を受けて立っていられるはずがない。
 
土煙の中から姿を現したベータは無くなった自分の右足と右腕を交互に見ている。

「はは……本当に化物じゃないか……」
 
こいつらは人間の限界をとっくに超えている。いや、もしかしたら人間ではないのかもしれない。

「まさかお前……人造人間(ホムンクルス)か?」

「……良く分かりましたね」
 
ベータは表情を一切を変えずに言う。

「神の断罪を受けて生きている人間なんていない。なのにお前は普通に立っているし生きている。

そんなの悪魔と契約した人間か人造人間と考えるしかない。

「そうですか。確かに私やガンマ、そしてアルファはクラウン様によって作られた人造人間です」
 
ベータはふらふらと揺れると壁に背を付ける。

「と言っても、私たちも元は人間でした」

「えっ?!」
 
元は人間だった? 

「まさかお前たちもクラウンの人体実験を受けたのか?」
 
俺の言葉にベータは軽く頷く。

「私たちにとってクラウン様は命の恩人であり私たちの親でもあるお方です」

「……」
 
なぜ自分の体を実験台にしたクラウンを命の恩人だと言えるんだ。俺は何もかも奪ったあいつを許すことが出来ないと言うのに……。