ヴェルト・マギーア 星の涙 ACT.1

「しかし、ここには――」
 
どうやらここに監禁されているのは俺だけじゃないみたいだ。

隣の牢屋、目の前の牢屋からヒソヒソと声が聞こえれば、どこからか子供の鳴き声までも聞こえてくる。

「レオンハルトたちが追っていた人攫いってのが、レギオたちだったわけか」
 
人攫いをする目的は分からないが、早くここから出る手段を見つけないといけない。

こんなところに長居する必要もないし、レオンハルトにこのことを伝えないと。

「お兄さん起きたの?」

「えっ?」
 
すると同じ牢屋の中で女の子の声が聞こえた。声のする方へ目を向けるとそこには、見覚えのある人物が膝を抱えて隅に座っていた。

「お、お前……マナティか!?」

「よく覚えてたね」

「そ、そりゃ覚えてるさ。その前にお前言葉が……」

「あなたなら私が話せる理由くらい、直ぐに分かるんじゃないの? 怪盗レッドアイさん」

「……ああ」
 
なら、ひとまずここまでの経緯を整理するか。
 
まず俺はマナティの父親と名乗る男から、マナティの母親の形見であるペンダントを盗んで欲しいと依頼された。

しかしその男はマナティの父親ではなかった。マナティの母親の形見のペンダントを盗んでくれと言う話も嘘だろう。
 
奴らはマナティが余計なことを話さないように魔法をかけ、ギルに話を通して俺のところにやって来た。おそらくギルも二人の関係については知らないだろう。

「まんまと騙されたよ」
 
まさかこれが全て俺をここへ誘い込むための作戦だったなんて、正直そう思いたくないところだが思わざるを得ない。

現にこうして捕まって牢屋に放り込まれているんだからな。

「なあ、マナティ。話すことが出来なくても、俺に状況を伝えることだって出来ただろ?」

「そんなことしたら私が殺されるもん」

「お、お前見た目によらず賢いな……」
 
そりゃそうだ。

見ず知らずの、それも怪盗レッドアイに自分の命を捧げるより、奴らの言うことを聞いておいた方が、自分の命を奪われる危険性は低くなるからな。

今のところはな。

「それでもう一つ聞いても良いか?」

「なに?」
 
俺は手首にはめられている手錠を見下ろして言う。

「これが何か分かるか?」

「……知らない」
 
ですよね。うん、聞かなくてもそう返事が返ってくるだろうと思っていた。
 
これが何なのかは大体検討がつく。

おそらくこの手錠は一時期的に魔法を使えないようにする物だろう。本来これは罪を犯した囚人たちが付ける物だ。こういう手錠を付けないと、魔法を使って脱走しかねないからな。

「となると今すぐに魔法は使えないか」
 
しかし外す方法はある。さて、その後はどうしたものか……。