「良い? しっかり俺に着いて来てよ」
 
ナインは私の手を握ると走り出す。ナインに手を引かれるまま、私たちは入り組んだ路地裏を駆けて行く。

「出直したいところだけど、引いてはくれないよな……」
 
ぶつぶつと何かを呟く彼に私は問いかける。

「だ、誰なんですか? あの人たちは?」

「ん? 悪いけど部外者の君には詳しく話せないかな」

「ぶ、部外者?」
 
もしかしてこの人……魔法警察の関係者?

「あ、あなたはいったい……」
 
私の言葉にナインはクスリと笑う。

「あれ? もしかして俺に興味持ってくれた?」

「そういう事じゃなくて!」

「おっと、危ない!」

「きゃっ!?」
 
ナインは掴んでいた手を自分の方へ引き寄せ私の体を抱きしめる。仮面を付けていた二人組は、高くジャンプすると私たちに剣を振り下ろす。

「氷の精霊よ、その力をもって敵を穿て、氷の槍(アイスランス)!」
 
ナインが放つ氷の槍が仮面を付けた二人組に向かって飛んで行く。しかし仮面を付けた二人は、持っていた剣を使い簡単に氷の槍を砕き捨てる。

「うっへ〜。流石に普通の魔法じゃ無理か」
 
ナインは仮面を付けた二人組の様子を伺うと私の手を引いて再び走り出す。

「あの、どこへ向かっているんですか?」

「ん? どこにも向かってないよ。ただこの辺りをぐるぐる走り回っているだけ」

「な、なんで!?」
 
こんなところぐるぐる走り回るよりも、ここから出て人がたくさん居るところに行った方が良いんじゃ?

「被害は最小限に抑えたいからね。だから聞いたでしょ? ちょっと大変な事になるって」

「そういう意味だったの?!」
 
まさか私巻き込まれたの!?

「大丈夫だよ。君見かけによらず体力ありそうだし、こういうの平気そうだし」

「へ、平気なわけないじゃない!」
 
平気なわけない! 今だって怖くて蹲りたい衝動に駆られている。そんな状態で走れているのだって奇跡に近い方だ。

「……なるべく早く帰せるように頑張ってみるよ」
 
そうして走り続けた先の角を曲がった時、行き止まりの事に気がついた私たちは足を止めた。

「い、行き止まり……」
 
どうしよう……戻ったらあの人たちに襲われるのは確実で。

「まあ……こんなもんかな?」
 
そう小さく呟いたナインは私の手を放すと地面に手を付く。

「氷の精霊よ、大気の精霊よ、その力を持って数多の欠片を生成せよ」
 
ナインの詠唱により私たちの目の前に小さな氷の粒が姿を現す。