「ごめんね……セシル」
 
頬に涙が伝った時、誰かが拭ってくれる感触を感じた。それに気がついた私はゆっくりと目を開く。

「だ……れ?」
 
視線を横に向けた時、そこに居た人物を見て私は目を丸くする。

「レオン……」

「っ……」
 
私に声に驚いたのかレオンハルトは軽く笑うと言う。

「とても懐かしい呼び名だな」

「えっ……あ! 私ったらつい」 
 
あの夢を見ていたせいなのか、とっさにレオンと呼んでしまった。でも何でレオンハルトがここに居るの? まだ病院で入院しているはずなのに。

「どうしてレオンハルトがここに……?」

「自分の事より俺のことか?」

「えっ……」
 
レオンハルトに言われ私はオフィーリアの事を思い出した。

「そうだ! 確か街でオフィーリアとはぐれちゃって、それから――」
 
そこで私は口籠る。

「ミリィ?」
 
そうだ……あのとき私は変な人たちに襲われたんだ。

✩ ✩ ✩

あの時ナインと名乗る人の目を見て怯えていた私は、上から私たちを狙っている人たちの存在に気づいていなかった。

「ごめんね、ミリィ。ちょっとこれから大変な事になるけど良いかな?」

「……はい?」
 
どういう意味だろうと思い首を傾げて彼を見る。
 
ナインは頭上に手をかざすと魔法を発動した。

「絶対領域(テリトリー)」
 
ナインの言葉と共に紫色の光が壁を伝って広がっていく。そして光の端同士が結び付き合うと、紫色の空間が私たちを囲んだ。

「いったい何をするつもり?」

「何って仕事だよ。今から奴らを追い込むんだ」

「や、奴らって?」

「ほら、早速来たよ」
 
ナインが上に指をさすと顔に仮面を付けた二人組が剣を構えて、私たちに襲いかかって来た。

「っ!?」
 
怖くて後ろに一歩下がったときナインの手が私の腰に回された。

「大丈夫だよ。俺が着いているから」

「で、でも……」

「今この領域は全部俺の物だ」
 
私はナインの言葉が理解出来なかった。領域が自分の物ってどういう意味なの? まさかさっきの魔法が何か関係しているんじゃ。