「そこで眠っている【ミリィ】は、レオンハルトの恋人なんですか?」
 
い、いきなりミリィを呼び捨て?! 驚いてレオンハルトに目を向けると、俺と同じくレオンハルトも目を丸くしている。
 
恋人かどうか聞かれて驚いたのか、それとも初対面なのにいきなり呼び捨てで名前を呼んだ事に驚いたのか、いったいどっちで驚いたんだ?

「ナイン。ミリィに何かしたのか?」

「別に何もしていませんよ。ただちょっと、ミリィは可愛い女性だと思って」

「可愛い……だと?」
 
ナインの言葉にレオンハルトは目を細める。

「俺とミリィはただの幼馴染だ。それ以上の関係は持っていない」

「ふ〜ん。【ただの幼馴染】なんですよね?」

「それがどうした?」
 
ナインはレオンハルトに何かを確認しているように見えた。

「嫌な予感がする」

「えっ?」
 
俺の言葉にオフィーリアは首を傾げる。
 
これは絶対嫌な方向に話が進みそうだ。

「なら狙っても良いですか?」

「何を?」

ナインはミリィに指をさすとレオンハルトに宣告するように言う。

「ミリィの隣を狙っても良いですかって、聞いているんです」

「っ!」

「なっ!」

「ええええ!?!」
 
俺たちの後ろでミューズが声を上げる。
 
予想していた言葉が出てきたので、まずいと思いながら俺は額に手を当てる。
 
うん、だよな。そうなるよな。

「【たたの幼馴染】ならレオンハルトさんの許可は要りませんよね?」

「それ……」
 
レオンハルトはナインを睨みつけると、とんでもない事を口にする。

「ミリィが誰と付き合おうが俺には関係ない」

「ばっ!!」 
 
俺は慌ててミリィに目を向ける。
 
もしかしたらミリィが起きているんじゃないかと思ったが、幸いミリィは安心しきった表情を浮かべながら寝ている。
 
少しホッとしレオンハルトたちに目を戻す。
 
あんなこと言ってレオンハルトはどうするつもりなんだ? いや、そもそもレオンハルトはミリィの気持ちにすら気づいていないか。

もしこのままミリィがナインと付き合う事になったら・

「帰るぞ、ブラッド」

「えっ? お、おいレオンハルト?」
 
いきなり踵を返して歩き出すレオンハルトを、俺とオフィーリアは追いかける。

「ミューズ。レヴィナスさんへの報告任せたぞ」

「あ、あの! レオンハルトさんは?」

「明日には戻ると言っておいてくれ」
 
レオンハルトはそれだけ言うと足早に歩いて行く。どうやら一刻も早くこの場から離れたいみたいだ。

「ブラッド。これからお前の屋敷に行っても良いか?」

「ああ、構わない。ちょっとリフォームしたから内装は少し変わっているが」

「別に良い」

「じゃあ、急ぐか」
 
俺たちはそのまま屋敷に向かった。