「私はこうしてレオンハルトと一緒に居られるだけで良いの」

「でも今日はミリィの誕生日だし」

「私ね……もう満足してるの」
 
ミリィは窓の外に目を向けた後、俺に視線を戻すと言う。

「レオンハルトに会えたから」

「……っ」
 
ミリィは胸の上に手を置く。

「この四年間ずっと、レオンハルトが来てくれるのを待ってた。大きくなった私を見てほしくて」
 
そう言う彼女は笑顔を浮かべると言う。

「レオンハルトに会えて今の私の中は幸せでいっぱい。だから今日は……今までの誕生日の中で最高の思い出だよ」

「ミリィ……」
 
嬉しそうに笑顔を浮かべるミリィを見て俺は拳に力を込めた。
 
ああ……俺は何て馬鹿だったんだろう。仕事が忙しいと言う理由をつけて、今までミリィに会おうとしなかった。

ミリィの事はブラッドに任せて、俺が側に居なくても大丈夫だろうと勝手にそう思っていた。今思えば身勝手な思い込みだ。

身勝手で自己中心的な考え……。

そんな俺をミリィはずっと待っていてくれたのに……俺は――

「すまないミリィ……俺は」
 
ミリィに何て言えば良いのだろうか? 仕事が忙しかったからと言うのは、ただの言い訳に過ぎない。

会う時間なんて作ろうと思えばいくらでも作れた。でも俺はそうはしなかった。

「私は大丈夫だから、レオンハルトは自分が目的にしている事に専念して」

「……」
 
ミリィには道化師につい話していないとブラッドは言った。でも、もしかしたら彼女は薄々気づいているのかもしれない。俺とブラッドがやろうとしている事に。
 
俺は何も言わず立ち上がりミリィの側に寄る。

「レオンハルト?」
 
俺の顔を見上げるミリィを、俺はもう一度抱きしめる。

「ちょっ!? れ、レオンハルト?!」
 
腕の中で少し暴れる彼女の様子を伺いながら、俺は鞄の中からミリィへのプレゼントを取り出す。

「ちょっと遅くなったけど、これプレゼント」

「えっ…………私に?」

「ああ。付けてあげようか?」

「う、うん」
 
ミリィの長い髪にそっと触れ束ねる。束ねられた髪を支えるように髪飾りを付けてあげる。

「どう、かな?」
 
ミリィは直ぐ後ろにあった鏡を見つめると、とても嬉しそうに微笑んだ。