「じゃ、じゃあ一つだけ。行きたいところだがあるの」

「どこでも構わないよ」

「本当に?」

「もちろん」
 
どうしてそんなに俺の応えを確認するのかは分からなかった。しかしミリィが唯一行きたい場所と言っているんだ。俺は何も考えず頷くに限る。

「じゃあレオンハルトの家に行きたい」

「そうか。じゃあ早速……」
 
ん? 今何て言った? 聞き間違いじゃなければ【俺の家に行きたい】って言わなかったか?

「もう一度聞くぞ、ミリィ。ミリィの行きたい場所は?」

「だからレオンハルトの家に行きたいの!」

「何で……俺の家に?!」
 
急に俺の家に行きたいと言い出すから、一度は幻聴かと疑ったけど、どうやら本気のようだ。

「どうしてもレオンハルトの家に行きたいの!」

「い、行っても昔のままだぞ? 母さんも親父も家には居ないし、四年も帰って居ないから埃だらけかもしれないし」

「どこでも構わないって言ったの、レオンハルトなのに……」

「うっ……」
 
痛いところを突いてくるな……。まさか俺の家に行きたいなんて言うと思っていなかった。予想外の返事でどう対応すれば良いのか……。
 
それに年頃の女の子と家に二人きりというのはちょっと……。

「でもレオンハルトが嫌だって言うなら諦めるよ?」

「……ミリィ」
 
ミリィは握っている拳を作っている手に力を込める。
 
そうだ。今日はミリィにとことん付き合ってやると決めたじゃないか。ならここで迷う必要なんてない。

「大丈夫だよ、ミリィ」

「レオンハルト?」
 
俺はそっとミリィの髪を撫でる。

「ちょっと驚いただけだから」

「本当に大丈夫なの?」
 
顔を見上げる仕草が可愛くて、赤くなった頬を見られないようにそっぽを向いて言う。

「も、もちろん。それじゃあ行くか」
 
そのままミリィの手を引いて歩き出す。

「何だか懐かしいね」

「何がだ?」
 
俺の反応にクスクス笑うミリィは軽く笑いながら言う。

「こうして小さい頃はよく手を繋いで歩いたなって」

「……そうだな」
 
ミリィの言う通り、よくこうして手を繋いで一緒に歩いたものだ。危なっかしかったのもあるし、手を放したらいつ迷子になるか分からなかった。

だから俺はいつも手の届く側にと思って、ミリィの手を繋いでいたんだ。