その視線が地味に背中にプスプス突き刺さり、辺りの気配を探っていた俺はミリィの方を振り返る。

「そんなことないぞ? この勘で何度も助けられて来たんだ。今更疑ってどうするんだよ」
 
俺の勘は外れた事なんて一度もない。だから俺の行く方向には絶対の自信があるんだ。

そう何度も前から言っているのに、ミリィの奴は中々素直に受け入れてくれない。

そろそろ俺の力を信じてくれたって良いのに……。

「──っ」
 
俺は足を止めてミリィに動かないように手で制した。

「ミリィはこの辺りでちょっと待っててくれ」

「うん」
 
ミリィは直ぐに頷くと少し後ろへと下がる。

「とりあえずミリィには、光の盾(ミルアディルア)を掛けとくな」

「この辺りが吹っ飛ぶような魔法は使わないでよ」

「分かってるさ」
 
ミリィに念を押された俺は魔法を掛け終えて、裏路地の奥に向かって歩き出す。

光が差す事のない裏路地は、まだ昼近くだと言うのに真っ暗だ。そのせいで時間間隔が変になりそうだな。
 
そんなことを考えながら慎重に奥へと進んで行く。

やっぱりこの辺りの空気は少し違う。人の気配も感じないし空気が冷たい。

……いや、重いな。

この辺りに通り魔が潜んでいるのはほぼ間違いないだろう。

「おい」

「──っ!」

突如、後ろから声が聞こえ振り返ろうとした時に背中に剣を突きつけられた。

「お前……ここへ何しに来た?」
 
気配を全く感じさせず簡単に背後を取られた事に驚いたが、直ぐに切り替えて応える。

「何って……ちょっとこの先に用事があって通ってるだけだけど?」

「……そうか。なら【私】の質問に一つ応えて欲しい」
 
質問ってさっきのも質問じゃないのか? と思うところもあるけど、その前にこの人さっき【私】って言わなかったか? 

……気のせいか?

「あなた……怪盗レッドアイという男を知ってる?」
 
彼? の言葉に俺は目を見開いた。