ヴェルト・マギーア 星の涙 ACT.1

「少し様子が変よ」

「いや……少しどころじゃない」
 
あいつは焦っているんだ。
 
俺はまだ人攫いについて詳しく知らない。だがレオンハルトが調べているって事は、道化師と繋がっていると考えてもおかしくない。

「でもここまで見つからないのは変だ」

「もう攫われた後なのではないでしょうか?」

「そう、考えるのが妥当だよな」
 
本当はそんなこと思いたくもないが……。

「とにかくもう少し探してみましょう」

「ああ」
 
俺たちはレオンハルトの後を追いかけた。

✭ ✭ ✭

「ミリィ……」
 
どこに行ったんだミリィ! 頼むから……お前まで居なくならないでくれ。

お前まで失いたくない! あの時――セシルの時みたいに!

✩ ✩ ✩

十二年前――
 
ブラッドは行方不明になって数ヶ月が経った頃、俺とミリィはセシルと一緒に森の中で遊んでいた。

「ねえレオン。ブラッドはいつ戻って来るの?」

「治療が終わってからだよ」

「ふ〜ん」
 
俺は小さかったミリィからは【レオン】と呼ばれていた。

名前が長かったのが悪いんだけど、【レオンハルト】と言いづらかったミリィは、【レオン】とそう俺を呼んでいた。

「早く帰って来ると良いですね、レオンハルトお兄様」

「そうだね、セシル」
 
逆にセシルは俺の名前をちゃんとフルネームで呼べていた。【お兄様】付きだったけど。

「セシルも寂しいか? ブラッドが居なくて」

「はい。でも今はミリィやレオンハルトお兄様が居ますから、寂しくありません」

「そっか」
 
この頃の俺は少しずつセシルに惹かれていた。ブラッドには勿体無い良く出来た妹で何より笑顔が可愛かった。

「ねえレオン。もう帰ろう?」

「もう帰るのか?」
 
ミリィは俺の腕を強く抱きしめながら言う。ミリィはセシルとは真反対の性格で、俺にとっては本当の妹のような存在だった。