「これは運命なのか、それとも宿命なのか──」
 
彼が居ることは誤算だった。でも彼が彼女の側に居ることは俺にとっては都合が良い。

「ベータ、下がって良いよ」

「はい」
 
ベータを下がらせた俺は、目の前にある本棚から一冊の書物を取り出す。

「彼にはまだ使い道があるんだよ」
 
俺はブラッド君の研究内容が記された内容を確認していく。
 
十二年前の実験は我ながら成功に近かったと思っている。

でもあの瞳を受け入れたブラッド君は、瞳の魔力を直ぐに自分の物にし研究所を破壊した。

そのこと自体は想定内だった。そして俺は彼を逃した。
 
今後の俺の願いの為に働いてもらうため。
 
おそらくブラッド君はまだあの瞳の本当の力に気づいていない。

だったら彼女が居ることで、本来の瞳の力を呼び覚ます事が出来るかもしれない。

「俺の願いのために働いてもらうよ、ブラッド君」
 
この世界に道化師は二人も要らない。全てのオーギュストを消し去るために、精々頑張ってくれたまえ。

「み〜つけた!」

「ん?」
 
すると頭上から真っ白な羽が一枚下りてくる。それを目にした俺は顔を上げて言う。

「どうしたシエル? 嬉しい事でもあったか?」

「ううん。クラウンを見つけたから嬉しいの!」
 
そう言う彼女は背中から生えている真っ白な翼をはためかせる。

「まったく……俺の娘なんだから、もう少しおしとやかに行動できないのか?」

「そんなのつまらないよ。私は自由のまま飛びたいの」

「……そうか」
 
そっと優しく微笑んで思う。もし彼が彼女を見たらどう思うのだろうか? と。

その時の彼の顔を見るのが、今から楽しみで仕方がないよ。