「はああああ!!」
 
剣を振り下ろしたオフィーリアの一撃を、俺は避ける事もせずそのまま受けた。

「っ!」
 
剣で斬られた事により血が目の前を飛ぶ。その中でオフィーリアは青ざめた顔を浮かべていた。俺はそのまま彼女に手を伸ばして強く抱きしめた。

「こんなの……痛みの内に入……らねぇよ。お前が……抱えて来た痛みに……比べたらな」

「……ブラッド」
 
オフィーリアの中からレーツェルが溢れ落ちる。俺は彼女の背中を擦りながら言葉を紡ぐ。

「俺は……お前の事を何も考えていなかった。お前が抱えている……不安や苦しみ……信じることの恐怖に……気づいてあげられなかった」
 
俺は自分勝手な人間だ。道化師を倒すためなら、どんな手を使ってでも成し遂げようとしていた。自分の命すら使っても。
 
でもそんな俺にオフィーリアは言ってくれた。俺が死ぬことで悲しむ人が居ることを忘れないでと。

復讐と言う名の感情を糧に生きていた俺に、暗闇の中ずっと一人で生きていた俺に、彼女のたった一つの言葉が光をくれた。

「……怖かったよな」

「っ!!」
 
その言葉にオフィーリアの肩が上がった。

「人を信じる事の恐怖は……今の俺には分からない。だって俺にはミリィやレオンハルトが居てくれたからだ。でもオフィーリアの隣には……誰も居なかった」
 
ずっと一人孤独で生きて来て、隣を見ても後ろを振り返ってもそこには誰の存在もなかった。

だからこそ俺は。

「直ぐに人を信じろって言うのは……難しい話だ。でもオフィーリア……」
 
彼女の顔を覗き込み優しく微笑んで言う。

「お前がこれまでの旅で感じたこと、思ったことの全てをゆっくりで良いから話してくれないか? 楽しかったこと、怒ったこと、苦しかったこと、怖かったこと。何でも良いから……」

「……っ」
 
オフィーリアの目から涙が溢れポロポロと頬を伝っていく。

「俺もちゃんと話すよ。俺が怪盗レッドアイだってことも、なぜ星の涙を探していたのか、だからオフィーリアも聞いてくれるか?」
 
彼女は涙を流しながら俺の胸に顔を埋めた。

「ずっとこの先の道で俺は、お前の隣で話を聞いてあげられる。ずっと隣でオフィーリアを守る事が出来る。だから……」
 
オフィーリアの頬に流れる涙を拭いながら俺は笑顔で言う。

「もう一度、俺のことを信じてくれ」

「ブラッド……」

彼女は胸に顔を埋めながらゆっくりと頷いた。