浩大……。
 すっかり忘れてた。
 正直、今は裕が…………。

「良かったな。行ってやれよ。
 もう千紗も甘えられるようになったんじゃね?」

 え…。
 どうして………。

「邪魔しちゃ悪いしな。
 俺、帰るわ。
 会えて満足したし。」

 どうして………。

 帰らないでっていう言葉は喉の奥につっかえたまま出てこない。

 私の髪にくしゃっと優しく触れた裕が帰って行く。

 今ならまだつかまえられる手。

 その手と、裕の後ろ姿を見つめたまま動くことは出来なかった。