クラクラとする頭と黒い感情でいっぱいになる私の心。そんな状況も知らないで詩月は平然としていた。
「……なんか用?」
穏やかだったはずなのに私はすごくイライラしていて。これは気配もなく声をかけてきた詩月と、さっきの感情の余韻がまだ続いてしまってるから。
「ちょっと話したいことがあるんだけどいい?」
教室で見せる顔とはまた違う表情。
無視して帰ろうと思ったけど、詩月が言いたい内容は大体想像できた。面倒なことになる前にさっさと解決させておいたほうがいい。
私たちは場所を移動して、その足は中庭へと進んだ。
校内と違ってグラウンドで響くサッカー部や野球部の声が空を通じて聞こえてきた。詩月は大きなケヤキの木の下で足を止めて、ゆっくりと私を見た。
「ねえ、なんでうちの猫の名前がわかったの?」
ほらね、予想どおり。
あれは事故というか、私だってまさか階段を踏み外すなんて思ってなかったから本当に誤算だった。
「ねえ、なんで?」
黙る私に詩月がさらに問いかける。
ああ、失敗した。
高校では絶対に〝このこと〟はバレないようにしようって決めてたし、それは私がなるべく平和に過ごすための手段だったのに。
詩月はそのあとも同じ質問を繰り返して、顔はあっさりしてるのに、なんてしつこい男なんだ。



