「ごめん。詩月。私……見えたんだよね。駅のホームでぶつかった人がいたでしょ?あの人、知り合いではないけど中学生の詩月に会ったことがある人だった」
言わなかったのは私の都合。
「み、見えたって……どんなことが?」
詩月が一気に私との距離を詰めてきた。グッと痛いぐらい肩を掴まれて詩月の瞳に私が映ってる。
よく見ると詩月の耳にはピアスの穴。右にふたつ。左にひとつ。あの思念が本当なら記憶の先にいる詩月は今の詩月ではないかもしれない。
それどころか記憶が戻れば、今の詩月は消えてしまうかもしれない。
「なあ、羽柴。頼む。教えてくれ」
視線の先に見えたこめかみの古い傷跡。なにかにぶつけたような、えぐられたような深い傷。
私はそっと撫でるように触れた。
――『……いい加減にしろっ!!』
怒りと一緒に机に置いてあった本が叩き付けられる。
『俺の子どもならもっと賢いはずだ!ちゃんと冷静に考えてみろ。今から色々なことを学んで知識を付ければ俺みたいな人生が送れる。そうなりたいだろう?』
『………』
『なんだ、その目は』
『俺はなりたくない!父さんみたいな人には……』
『ふざけるな!!』
思い切り右頬を殴られて、その反動で本棚の角に額をぶつけた。視界が赤い。ズキズキと傷が脈を打っている。
視線の先にはドアの向こうからこっちを見てるだけの母親の姿。優先なのは俺じゃない。
いつだって父さんの言いなりで、それが正しいと思い込んでいて。頭をぶつけたせいだろうか。
吐き気がした。



