それは全部右手の思念を読み取る力で調べたこと。最初はお財布に閉まってあったレシート。

そこには母が楽しそうに知らない男と食事に行ったり買い物に行ったりしてる光景が見えて。それは父もそう。

スーツの胸ポケットに入っていた名刺。父は仕事の付き合いで夜の街に出掛けて、そこで働いていた女性と親しくなった。

笑っちゃうことにどっちも家庭の不満を相手の人に話していて。それを『うんうん』と受け止めてくれる存在にふたりは癒されていった。

そんな見たくもないことを好奇心と欲望で、どんどん調べていって残ったのは不信感だけ。

今思えば私も少しおかしくなっていたんだと思う。

触れるたびに絶望しかないのに触れずにはいられなくて。

自分の知らないところでなにをしていたのか。
どうしてこんなにひんやりとした家族になってしまったのか。

それだけを知りたかっただけなのに私もこの力に溺れていたんだ。だから海底に到着して周りは真っ暗で。たくさんのものを失ったことに気づいてからは、ほとんど右手でモノや人に触れなくなった。


――『羽柴になにか不思議な力があるならさ……
俺の記憶を一緒に探してくれない?』

どうして私は引き受けてしまったのかな。

あの時なら容易く突き放せたのに。

今はそのあとの顔が浮かんできっと詩月は自分が悪くないのにごめんと謝って、短期間でも付き合ってくれてありがとなと笑うのだろう。

本当に人と関わるのって面倒くさい。

すぐに情が生まれてしまう。