なんでだろう。あんなに詩月のことが苦手だったのに警戒心が湧かない。
詩月の指に触れて、その心は真っ白で。不謹慎だけど詩月本人には言えないけど、すごくそれが綺麗なものに感じたんだ。
だって誰でもみんなドロドロとした感情は持っているから。それがない詩月には汚れがなくて、触れても大丈夫な人なんて初めてだったから。
「じゃ、俺の探しものが終わったら羽柴の探しものを見つけようぜ」
「なにそれ。そんなものないよ」
「だったら探しものを探しておいて」
探しものを探しておくとか、ちょっと言い方が可愛くて一瞬、和んでしまった。
それから暫くして、私たちは帰るために駅に向かった。改札口を通ったところで詩月はトイレに行って私はぼーっと無意味にスマホをいじる。
なんだかんだ今日1日、時間が過ぎるのが早かった気がする。最後まで詩月の記憶の手がかりはなにもなかったけど。
その時、ホームにアナウンスが響いて下り電車が駅に入ってきた。ドアが開くとたくさんの人たちが降りてきて、私は邪魔にならないように改札口の端のほうに移動した。
あと5分で私たちが乗る電車が来るのに詩月はまだトイレから戻ってこない。
もしかして混んでるとか?
もし間に合わなかったら先に帰っちゃおうかな。そしたら詩月は怒るかな。あまり怒る顔は想像できないけど。



