誰でも裏の顔を持っている。
汚い世界。嘘だらけの世界。
「あ、もしかしてまた見えちゃったんだ」
上履きに履き替えたあと、気づくとそこには詩月がいた。
「なにが見えたの?どんな風に見えんの?」
〝見える〟なんて肯定したつもりはないのに、
それを前提に話しかけてくる。しかも昇降口から教室までの廊下や階段を犬のようにくっついてくるから、もう限界。
「あのさ、ちょっとしつこいよ」
私は足を止めて詩月を睨んだ。
無駄に高い身長に見下ろされてるのが不快だけど、それでも私はキリッと冷たい視線を送る。
「本当にやめて。私に関わらないで」
「それはムリだなあ。だって……」
「勘違いしてない?私は詩月が思ってるようなヘンな力なんてないから」
この力は誰にも見せないと決めた。見たほうも見られたほうも損しかしない。突然身についたくせに、この力から解放される方法を私は知らない。
「嘘だね。羽柴にはみんなが見えないなにかが見えてる。そうだろ?」
……本当にうざい。元々騒がしいヤツだけど空気は読めるというか、嫌われるようなことはしないタイプなのに。
「そんな強引なキャラでもないくせに本当にやめて」
「だからそのキャラってやつも自分的にはよく分からなくてさ。それで羽柴に頼んでるんだよ。
記憶を見つけてくれって」
最後の言葉だけは周りに聞こえないように、こそっと耳打ちをしてきた。
なにを考えてるか分からない。
嘘をついてる目には見えないけど、ひとつだけ分かるのは詩月も私の〝力〟だけに興味があるってことだけ。



