『世那が落ち着いて俺たちのことを許してくれたら……いつか三人で旅行に行きたいな。もう何年も遠くに出掛けてなかっただろ?』

リビングに飾られている写真は幼少の頃のものばかり。忙しさを理由にして、勉強ばかりを押し付けて、息抜きする時間を与えてあげなかった。

『そうね。いつか、いつか行きましょう』

ふたりの笑顔。それと同時に話が弾む。
それはこの先の未来の話。

キッチンでは沸々と油に火が付けられたままで、パタンと立て掛けられていた料理本が倒れた。

ページの端が炎に触れて、熱を帯びていく油はまるでマグマのように上下していた。

そして瞬く間に料理本がオレンジ色の物体へと変化して、周りのものへと燃え移る。

換気扇の設定は強。リビングに響くテレビの音と楽しい会話でふたりはそのことにまったく気づかない。

炎が天井に達した時にはもう手遅れで、リビングはそのまま炎に飲まれてしまった。