――バタン。

家に帰ると私はすぐに自分の部屋へと行った。

昔はごちゃごちゃと物であふれていたこの部屋も今は必要なものしか置いてなくて、一年中空気がひんやりとしている。

「……はあ……」

制服のままベッドに倒れて、ため息をついた。


詩月世那。

元々、胡散臭いヤツだと思っていた。

遊びの延長ではじめた水曜日のアレだって放送部員でもないのに許可されて。好き勝手なことをしてるのに許されてみんなの前ではニコニコと笑顔を絶やさない。


――『羽柴になにか不思議な力があるならさ……
俺の記憶を一緒に探してくれない?』

その目は冗談じゃなくて本気だったから私は怖くなって、逃げるようにそのまま帰ってきてしまった。


……記憶を探してってどういうことだろう?

今まで沢山の思念を読み取ってきたけど、詩月みたいに真っ白な人は初めてだ。

とくに手は与えることもできるし、奪うこともできるし、壊すこともできるから、触れると最近のことから幼少の頃までの強い残像がパノラマのように流れてくるのに。

詩月は猫のことだけ。

あとは本当になにも流れてこなかった。