後々に知ったことだけど、煙突掃除をしないで火をつけるとうまく循環できずに煙が下へと溜まってしまうらしい。もちろん俺は親父にこっぴどく叱られた。
煙が部屋に充満したせいで、家具が煤(すす)だらけになったし室内で育てていた母さんの植物もダメになってしまったから。
俺は考えて考えて考えた末に、自分の部屋へと上がって今まで買い与えられ続けていた本や参考書を暖炉の中に投げ捨てた。
そして家の中にあった植物もわざと暖炉の傍に置いて、蒸し暑い夏の季節なのにそこに火をつけた。
単純にただただ、困らせてやろうと思った。
これは単なる細(ささ)やかな仕返しだ。
両親はきっと俺を理想の息子として育てたかったんだろう。だれに見せても恥ずかしくない自分たちの願望を吸収させて完璧な息子を作りたかっただけ。
その理想を押し付けられるほどに俺はそれを否定したくなる。そして試したくなる。
理想じゃなければ、完璧じゃなければ俺はいらないのかと。こんなに反抗して、こんなに歯向かってる俺でも見捨てずにいてくれるのだろうかと。
投げたマッチの炎は着々と本に燃え移った。俺はその大きくなっていく火を確認して家を出た。
外ではもう日が沈みはじめていて、時間どおりならば母さんが先に帰ってくる。
外から煙突を見上げるとやっぱり煙は出てなくて、今頃は逃げ場のなくなった煙が暖炉の下へと充満してるはず。
少し気になってもう一度家へと戻ろうと思ったけど、仲間たちから連絡があってその足は引き返すことはなかった。



