ひとりぼっちの夜は、君と明日を探しにいく


「まま、まさか。見えるってなに?霊感的な?」

あまりに動揺しすぎて、らしくない笑いを浮かべてしまった。

お願いだから、そんなに話を広げないでよ。
たかが猫の名前を言い当てただけだし「だよねー。見えるとかヘンなこと言ってごめんね」って軽い感じで構わないから、早く諦めて……。


「羽柴」

なにかを言いたそうに詩月が名前を呼ぶ。

もし、これ以上しつこくされたら無視するしかない。詩月を透明人間だと思って、なにを言われてもシカトしよう。

……と、その時。

私の足元が影になって、ハッと顔を上げると詩月が目の前にいた。その距離はわずか数センチ。

その綺麗な顔で見つめられながら、詩月はぎゅっと痛いぐらい私の手を握った。


「羽柴になにか不思議な力があるならさ……
俺の記憶を一緒に探してくれない?」

ドクンと心臓が鼓動したのは頼まれごとのせいじゃない。

指先が詩月に触れているのに、読み取れたのはさっきの猫のことだけ。

あとはなにも感じなくて、例えるなら白。

詩月の心の中は真っ白だった。