「まま、まさか。見えるってなに?霊感的な?」
あまりに動揺しすぎて、らしくない笑いを浮かべてしまった。
お願いだから、そんなに話を広げないでよ。
たかが猫の名前を言い当てただけだし「だよねー。見えるとかヘンなこと言ってごめんね」って軽い感じで構わないから、早く諦めて……。
「羽柴」
なにかを言いたそうに詩月が名前を呼ぶ。
もし、これ以上しつこくされたら無視するしかない。詩月を透明人間だと思って、なにを言われてもシカトしよう。
……と、その時。
私の足元が影になって、ハッと顔を上げると詩月が目の前にいた。その距離はわずか数センチ。
その綺麗な顔で見つめられながら、詩月はぎゅっと痛いぐらい私の手を握った。
「羽柴になにか不思議な力があるならさ……
俺の記憶を一緒に探してくれない?」
ドクンと心臓が鼓動したのは頼まれごとのせいじゃない。
指先が詩月に触れているのに、読み取れたのはさっきの猫のことだけ。
あとはなにも感じなくて、例えるなら白。
詩月の心の中は真っ白だった。



