「ねーねー、慣生~」
「なに?」
「海行きたい~」
「やだ」
「せっかくだからいこうよ~」
「いやだ」
「...」
「...」
「...ふん!」
猫は水嫌いでしょ。
なんて思って思いながら、私がただ行きたくないだけ。
何が夏休みだ。めんどくさい。


マンションの展望フロアで駄々をこねてから拗ねたchat。
彼の家はこの下の階だった。

そう、ちょうどあの時私が立っていた屋根の部屋。
私が降りようと思ったちょうどに窓を開けて外を見てたらしい。

マンションの表札は何も書いてなくて、ちゃんとした名前は分からないけど。
何なら、本当の名前かもしれない...。
どっちにしろ呼び慣れてしまった分、このままでもいいかなと思い始めてる。



「じゃあ、どこならいいの」
まだ拗ねてるみたいだけど、
かなり出かけたいのか話しかけてくる。

「う~ん。涼しいところ」
「涼しいところかぁ...」
どこかあるのかな?

「じゃあーー」






バシャンッ
「冷たー!」
「あ~あ、ビショビショじゃん」
「涼しい涼しい!いるか高っ!?」
私よりテンションを高くしてはしゃいでるchat。

chatが出した案は遊園地付きの水族館だった。
『明らかに涼しそう!』と言って、
私を引きずり出した。

「次はペンギン!」
こんなにはしゃぐchatはまるで女の子。
いや、159cmある私より身長は余裕で高いよ??

「うぇーい、ペンギン!」
「へぇ~、ペンギンって意外と種類いるんだね」
「みたいだね!」
流石にこのテンション。気を使っているんではないかと心配になる。
それに、あの時からchatは私に質問を一切してこない。
私は質問したいこと沢山あるのに...。

すると突如、chatが私の顔を見る。

「な、なんか顔に付いてる?」
「ううん。付いてないよ」
「そう、なんだ」
ついてない割にはまだ見てくる。

「ねぇ」
「何?」
「質問はないの?」
「え...」
「本当はあるだろ?」
心を読まれてる...そう思う時は多々ある。
あの展望フロアであったあの時から、
何回も。
そんな時のchatは少し性格が変わる。
私が知ってるchatじゃなくなる。

「べ、別に無いよ?」
「ほんとか?」
「...」
chatがあまりにも真剣に私を見て話すから、
申し訳なくて言葉が出なくなる。

「ほら」
そう言って手をこっちに差し出す。
何のための手なのか、考えていると...

「僕が気ぃ使ってるとか思ってんだろ」
「...」
きっと本当に心が読めてるんだろうな。

「あのねぇ、慣生だから一緒に来たんだ」
「え、」
「慣生が元気ないから。外に連れ出したかった。なのにさぁ」
「...ごめんなさい」
私のためだったなんて。
いつも行きたい行きたいって言うのはchatだから...。

「でも、いつもよりは楽しそうだったからいいけど...」