「慣生は生きたい?」
「死にたいからここに立ってるんでしょ」
「だから、生きたい?って聞いたの。死にたい?とは聞いてないよ」
一緒じゃん。意味合いはわからない。

「生きたくない」
「それこそ嘘じゃん」
「嘘じゃないし」
「手、震えてるよ」
「だからなに」
本当は怖い。
落ちて地面に当たった瞬間は痛いのかなとか、
死んだらどこに行くんだろうとか。

「慣生は本当に死にたいの?」
なんでchatはそんなこと聞くんだろう。
私が本当の事言ったら、どうなるんだろう。

「それとも慣生は...」
「もし!」
私はchatの言葉を遮って言う。

「もし私が死にたくないって言ったらどうするの...?」
興味本位。
いや。
私が言われてた、懐かしい言葉が出てくるんじゃないかっていう希望。

「chatにはわからないよ。きっと」
「慣生が死にたくないって言ったら、僕はその分、慣生の希望になるよ」
「なんで」
「分からないけど、僕は君といる」
「ば、かじゃないの。」
何を考えてるのか分からない。
どうして。
涙が少しずつ溢れる。

「今日初めてあったんじゃん。私のこと何も知らないでしょ」
「これから知っていけばいい。しかも、何も知らないわけじゃないよ」
「なにそれ。他人に...そんなこと思えるの?何も知らない、でしょ...」
きっとこの涙は悲しいんじゃない。
今までずっと流してた涙とは違う。

「知ってる。君は山下慣生。それだけ知ってれば十分」
「何で、そこまで...」
「それはさっきも言った。僕は猫だから。自分がしたいようにする」
「...」
もはや、言葉も出ない。
涙も止まらない。

「慣生、僕はずっと君のそばにいるよ。君が望むなら」
「うぅ...ヒックなん、でよ。い、みわからヒックない...てばぁ」
「泣かないでよ...。僕だって分からないんだよ。ただ、君といたい。君が望むことをしたいんだ」
「うぅ...」
何故かは分からない。
凄く嬉しいと思ったことは誰にも言わない。
だってなんか悔しい。

「おいで」
そう言って腕を広げて私を呼ぶ。
やっぱり少し抵抗があった。
まだchatのこと何も知らない。
でもこの人なら...って思うから、
私はその腕の中に進む。

「慣生こそ猫みたい。いや、名前はわんわんみたいだから犬かな」
「うるさいなぁ。自分がおいでって言ったんじゃん」
「あー、そうだっけ?」
「記憶ないの?お爺さん」
「誰がお爺さんだ。僕はまだそんな歳じゃない!」
「そんなにムキになんなくても。じゃあ、何歳なの?」
希望、興味。
なんとでも言える。
私はきっとchatを出会った時から信じていたのかもしれない。

「う~ん。70歳?」
「お爺さんじゃん。嘘でしょ」
「え~、信じてくれないの?」
「嘘丸見えじゃん」
「じゃあ、30歳」
「それも嘘っぽい」
「ダメかぁ。ところで慣生は何歳なの?」
「レディに年齢聞くなんて礼儀知らず」
「制服着てるとこ見て、16!」
「ぶっぶー!」
「そこだけテンション高いって...」
きっとこの人なら私から離れていかない。
ほんのちょっとだけ...
そんなふうに思った。

「正解は17歳でした」
「答え言わないでよ!」
「残念でした~」
きっと生きていける。