いつもの空間。
私たちはいつもの場所の備え付けソファーに座って窓越しに外を見ている。

「もう9月だねぇ。」

確かに。もう9月。私とchatが出会ったのは4月だから、あっという間の秋。

「そうだね。」
私はchatの横顔を見る。

最近のchatは時々寂しそうな顔をする。
それを見ると、私は何故か悲しい気持ちになる。

前を向いてから、
「学校、行きたくないなぁ...。」
「別に行かなくていいんじゃないの?」
「...え?」
「高校は勉強するために来てるんでしょ?とか言うけどさ、環境の悪い場所で勉強したって、学びにならないでしょ。」
「確かに」

chatの言うことはいつだって単純な私を納得させる。
でも、言われて気づいた。
このまま逃げてていいのかな...。
chatから守ってもらってばっかりでいいのか?

言い訳あるか。

私だって貰った分をchatに返したい。
そのためには、克服というものをしないと先には進めない気がする。


「それに、なんて言うのかな...勉強ぐらい僕がーー」

chatの言葉を遮って言う。

「行くよ。」
「へ?」

chatにしては間抜けな声。

「私、学校行ってみる。」
「え、あ...そうか、慣生がそう決めたなら、応援するよ。」
「ありがとう。ところでさっきなんて言おうとしたの?」
「大したことじゃない。」
「そう?」

chatがなんて言おうとしたのかはよく分からないけど、
この今の気持ちを伝えたい。

「ねぇ。」
「ん?」
「私がこう思えたのはchatのおかげなんだよ。」
「僕、何にもしてないけど...」
「色んなものをいつも貰ってる。」
「かなぁ。でも、もしそうなら慣生は最近変わったからそうなのかもしれない。」

喜びが込み上げる。
私でも少しずつ変われている。

「そう言えば、chatは?」
「学校?」
「そう」
「覚えてない。」
「じゃあ、家族とかも...?」

まずいことを聞いてしまったかなと後悔した。
chatは記憶が無い。
それは観覧車の時に聞いたはずなのに。
それでもchatはなんの躊躇いもなく答える。

「うん。全くない。」
「そ、そっか...」
「気、使わなくていいから。別に気にしてないよ。」
「なんでわかったの!?」
「慣生のことだから、きっとそうなんだろうなぁって思って。」

やっぱり心を読むのは天才的だと思う。

「chatって、心読むよね。」
「そう?慣生がわかりやすいだけでしょ。」
「馬鹿にしてる?」
「してないと思う。」
「してるな。コノヤロー。」
「してないしてない」

chatは笑顔で言う。