あたしは自分の心臓がドクドク跳ねるのを感じていた。


これはただ事じゃない。


このままじゃ由梨が連れて行かれてしまう。


由梨は男たちに囲まれていて、口をふさがれた状態で声も出せないでいる。


誘拐……。


そんな言葉が浮かんできてサッと青ざめた。


同時に、蓮のイトコの話を思い出す。


ヤクザ関係の人たちに知り合いがいると言っていた。


でもまさか、本当にそんなことまでするなんて……。


由梨が車に押し込まれそうになっている。


ぼんやり見ている暇なんてなかった。


あたしは勢いを付けて電信柱から飛び出した。


「由梨を離して!!」


大声で叫びながら走り、由梨を車に押し込もうとしている男に体当たりをした。


男がバランスを崩して由梨の手を離す。


その隙に、由梨が暴れた。


口を塞いでいた手が離れる。


「誰か助けて!!」


由梨の悲鳴が住宅街にコダマする。