沈んだ気持ちで教室へ戻るとクラスメートの大半が登校して来ていた。


みんないつもと変わらない。


もうすぐチャイムが鳴るのに菜々花が来ていないことを、みんな気にしていない。


「菜々花、施設に行っちゃったのかな」


朱音が小さな声でそう聞いて来た。


あたしは返事ができず、視線を逸らせた。


それは朱音にとって肯定の意味だったようで、深いため息と同時に「ドジだよねぇ」と呟く。


「もっと上手にやればよかったのに」


クスリと笑ってそう言う朱音を、思わず睨み付けていた。


朱音はミッションをクリアして、少し調子に乗ってるんだ。


お金を出してプロに頼んだだけのくせに、菜々花の気持ちなんてなにもわかっていないくせに。


「なに? その顔」


いつの間にか厳しい表情を浮かべていたようで、ハッと我に返った。


「あたしはもう就職も進学も決まってるんだよ? そんなあたしに立てつかない方がいいんじゃないの?」


朱音が粘つくような笑顔を浮かべる。


誰、これ?


こんなのあたしが知っている朱音じゃない。


もっと素直で可愛くて友達思いな子が朱音だったはずだ。


今の目の前にいるのはミッションをクリアした事で味を占めたハイエナみたいな女だった。