風薫る

「木戸さん」

「うん?」

「水飲んでくるね」


分かった、と顔も上げずに言った熱中している木戸さんの返事を背中に受けて、固まった体を伸ばした。


背中がばきばき不吉な音を立てている。


大丈夫かな……何だか危ない予感がひしひしするんだけど。


高校生なのにな。運動不足なんだろうか。


……気をつけよう。


公園の中央に、意外と立派な、強く捻らないと回らない、固く錆びた水飲み場がある。


出てくる水は錆びていない蛇口を捻りながら、そういえば、と思う。


木戸さん、虫大丈夫らしい。

飛んでいるのもさらっと手で避けているし、葉にいるものはちょっと吹き飛ばして普通に葉に手を伸ばしているし、さすがに手に止まったものは払っているけど、そこまで気にした様子はない。


女子って虫が苦手な人が多いから、ちょっと心配していたんだけど、杞憂だったらしい。


なんて考えを巡らせつつ戻ると、木戸さんが木の幹に隠れつつ、隅で何やらごそごそやっていた。


「……木戸さん、何してるの?」

「あ、おかえり黒瀬君、ごめんちょっと見苦しいんだけれど」

「いや、そんなことないよ……って」


今までは暗くてよく分からなかったけど、明るいところに戻ってきた木戸さんを見て慌てた。