風薫る

「そんなことないよ……!」


慌てる私にそうかな、と呟いて、黒瀬君が言う。


「だって、木戸さん怒ってないから」

「……怒ってるよ?」

「怒ってないよ。笑ってた。話してるとき、懐かしくて楽しいなあ、って顔してたよ」


黒瀬君には全部、お見通しだったらしい。


「……うん」


そうだね、そうだよ。


「楽しかったよ」


母はお茶目な人で、今でも思いでは輝かしく懐かしく、温かい。


でもびっくりしたけれど、ともう一度念を押せば、うん、と優しく頷く。


「そこは譲らないんだ?」

「うん。あの後しばらく話さなかった」

「そしたら焦って相殺できそうなこと考えて、木戸さんが喜ぶことしてくれたでしょ。どこかに連れて行くとか、美味しいもの食べるとか」


あ、でも木戸さんなら欲しくても高くて買えなかった本かな。


なんて呟いた黒瀬君にぎょっとする。


本でしたよ、本でしたとも。ばっちり正解です。

高くて買えなかったハードカバーのシリーズを全巻の半分ほどねだったので、結構高かったんじゃないかと思う。


……でも、何で分かるんだろう。


親はどこも同じようなものなのだろうか。