風薫る

伝統文化を大事にする姿勢が見えて、素敵なお家だな、と思う。


私の家族はみんな行事とかお祝いごとが好きで何でものってみるタチで、今までいろいろお祝いしてきたから、何だか身近に感じてしまっておかしい。


お月見をしたり、おせちを作ったり、七草粥を食べたり、豆まきで鬼になったり、恵方巻きを作ったり、ひな祭りをしたり。


そういう、毎年更新される特別な日常に、心がほかほかするんだ。


お母さんが「やるわよー!」って号令かけて、お父さんが「やるか!」って返事して、お兄ちゃんが面倒臭がりながらも「しょうがない、手伝うよ」って言って、私は食べ物の名前を叫んで、皆で笑うの。


お兄ちゃんはもう大学生だ。端午の節句は今は祝わなくなったけれど、懐かしい。


「もうすぐこどもの日かー」


そうそう、祝日と言えば、


「ゴールデンウイークはどこも混雑するよね」

「わっ」


ふいにかけられた声にびっくりして肩が跳ねる。


「黒瀬君……!」


振り返ると、後ろに優しく微笑む黒瀬君がいた。


陽だまりの心地良さにぼけっとしすぎて気づかなかった。


したり顔をした黒瀬君が、こんにちは木戸さん、と隣まで移動。


翻る髪に目を細めて、左手で小さくさらりと払う仕草がよく似合う。


「こんにちは、黒瀬君」

「ごめん、お待たせ」


トン、と机に鞄を置いて。


六割の穏やかさと四割の爽やかさを混ぜた、今日の風のような雰囲気をたたえた黒瀬君が、ゆっくり笑った。