放課後、黒瀬君を待って一緒に図書館に行く。


交わした約束も、もらった放課後も、私のものだ。


何度も本の貸し借りをした。隣を歩いた。学校でも帰り道でも、話をした。


その度に刺さる視線が胸に痛かったけれど、密やかな噂話は私たちを少しずつ削ったけれど、黒瀬君はそれでもいつも微笑んでいた。

柔らかに、穏やかに、乳白色の空に似た、優しい笑顔を向けてくれた。


友達でいなければと、蓋をして。今は駄目だと、目を閉じて。


私は大分前からずっと、色付く心なんて知らないふりをしなければいけなかった。

閉じ込めなければいけなかった。


でも、前に一度だけ、抱きしめられた。あのとき嫌ではなかったことが、明白な答えだ。


『木戸さん』


掠れた声が蘇る。高い体温が蘇る。


自分が黒瀬君を好きなんだって思い出してしまうと、もう堰が切れた。


……会いたいな。会いたいなあ。


一緒に読書がしたい。笑って欲しい。木戸さんって、名前を呼んで欲しい。