風薫る

「はあ? あんた噂の木戸さん?」


その女の子は、いきなりの乱入者を嫌そうに見遣った。


ふうん、と。私の全身を足先からゆっくり眺めて、じとっとした半目で顔まで観察し、目が合ったところで、はん、と鼻で笑った。


……私は格下だと判断されたらしい。


「彼女面しないでくれない? 今あたしが話してんの」

「別に彼女面してませんが」


私は別に、黒瀬君の彼女になりたい訳じゃない。

なりたくない訳でもないけれど、関係性の名前は何でもいい。黒瀬君と本が読めたらそれでいい。


だから、相応しいとか、似合うとか、つり合うとかは関係ない。


私が一緒に読書したいから黒瀬君に会いに来たのであって、彼女になりたくて来たこの女の子と私は何も関係がない、はず。

対立関係、競争関係にない彼女に何か言われたからと言って、考え直す必要はない……はず。


「え、てか予定ってもしかして図書館巡りとかいうやつ? 木戸さんと約束しちゃったから断ってんの? 嘘でしょ、ねぇ絋くん、あたしとデート行こ?」


高くて甘えた声が、耳に立つ。


違うよ。違うと思うよ。

黒瀬君は私に義理立てしてくれているのではなくって、はっきり断ったと思うのは、私だけじゃないはずだ。


確かに彼女は、小さくバランスよくまとまった、とても可愛い顔をしている。髪は明るい茶色で、巻かれた毛先が華やかだ。

伸びた爪も綺麗に整えられて、可愛く装飾されている。色白の肌に赤い唇がひどく映えていた。


確かにあなたはとても可愛いよ。

とっても綺麗で華やかで、並んで歩いたって黒瀬君とつり合いがとれそうに見える。


でも。だけど。もういい。


……丁寧さなど、放り出してしまえ。