風薫る

少し見れば嫌がっていると分かるのに、なんでこの女の子は気づかないんだろう。


申し訳なさそうな力ない視線が、動けずに固まっていたこちらをそっと伺って、ばちり、目が合う。


(ごめん、木戸さん)

「っ」


そんな。そんなこと。


困った顔。

貼りついた微笑み。

笑っていない瞳。

真っ白い拳。


「じゃあちょっとでもいいから、あいてる日ない?」


終わらない、問答。


「——すみませんが」


ふつりと、私の中で何かが切れた音がした。


黒瀬君を庇うみたいに、強引に二人の間に滑り込む。かかとに椅子の脚がぶつかった。


「すみませんが、」


まつ毛が上を向いている。ブラウンのアイラインとピンクのアイシャドウ。

綺麗にメイクが施された大きくて丸い瞳を見つめる。


ああ、本当に可愛い人だ。だけど——


「何……っ」


——約束、したから。


「黒瀬君は私と図書館巡りをする約束があるので、あいてる日は一日たりともありません」


私のものだ。

黒瀬君の放課後も休日も、全部全部、私がもらったものだ。


私の放課後と休日を渡して、照れた顔で笑ってくれた黒瀬君から、黒瀬君の放課後と休日をもらった。あなたになんて、渡さない。