風薫る

硬い声。なじるのを抑えたみたいな、淡々とした抑揚。作ってるんじゃないかって思うほど、ひどく硬い口調。


敬語って一口に言っても、私に対する敬語はもう少し柔らかかった。

丁寧語だったけれど、もっと親しみのある感じで、自然とそうなっただけの礼儀正しさがにじんで。

多分、今の言葉だって本当は、初対面の人に対する礼儀正しさゆえのものなら、「俺は別にそう思わないって、何度も言ってますよね」になるはずなのに。


こんな、ひとつ残らず隙のない硬い口調にしようとしているのは、初対面だからだとは思えない。


「可愛い彼女なんていりません。木戸さんが一緒にいてくれるのは俺がそう望んでお願いしているからで、付き合っていません。つり合いがとれるとれないも関係ありません」

「だってみんな噂して」

「邪推はやめてくださいませんか。俺は慣れてるから何を言われたって構いませんが、木戸さんを巻き込まないでください。あまりに見当はずれな非難をされても、失礼で迷惑な方だなと思うだけです」


黒瀬君、絶対怒ってるよこれ。こんなにはっきり言うの見たことないもん。珍しく遮ってるし……。


「絋く」

「それから、名前で呼ばないでください」


断定的な、どこまでも否定的な口調だった。


ぴしゃりと鋭い拒絶は、どこか弱弱しい響きをしていた。困っているのだと、雰囲気で分かるような。