次の日。そろーりそろーり、と慎重に登校した私に刺さった、多くの鋭い視線。


居心地が悪くて小さく唇を噛むと、とん、と肩を叩かれた。


「おはよ、彩香」


見慣れた少年のような活発な笑顔。明るい茶髪。


思わずこぼれかけた、びっくりした、という言葉を慌てて飲み込んで無理矢理笑う。


「おはよう、瑞穂」


怯えが先走って跳ねた肩を、そっと落とす。


……誰かと、思った。


「今日は遅いんだね。いっつも先に教室いるから、瑞穂だとは思わなかった。どうしたの? 寝坊? バスか何かが遅延した?」

「うん、ま、ちょっとね」


安堵に口が緩んで饒舌になる私を、瑞穂はゆっくり目を細めて見た。


その視線に気づかないふりをして、「そっかあ」と微笑んで首を傾げる。


「彩香」

「ん?」

「早くしないと遅刻するよ。こっちこそ、いっつもこんな遅いなんてびっくりしたんだけど。全くよくそれで遅刻しないね、っていうか、あんた結構歩くの速いよね」


見かけによらずね、見かけによらず。なんて、ひどいことを二回も言うので――二回言うことは大事なことだと相場が決まっている――ふくれっ面で騒いだ。


「見かけによらずって何! ひどいよ!」

「え、言葉通りの意味だけど?」

「もおおおお!」


ふおおお、おちょくられている。これは絶対おちょくられている。瑞穂ったらひどいや、くそう。


すたすた前を歩く瑞穂を追いかけて、私は背が小さくてその分足も当然短いけれどそれほどでもなくて、身長にそこそこ見合った長さなんだよと盛大に墓穴を掘りつつ抗議する頃には、心を抉るほどに刺すたくさんの視線のことは、すっかり忘れていた。